名古屋高等裁判所 昭和25年(う)804号 判決
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(理由)
凡そ弁護権は其の私選たると国選たるとを問わず等しく「弁護契約」の成立によつて発生するものであつて弁護屆又は選任命令に対する請書の提出に因るものではない。この事は右何れの場合に於ても正当の事由あらば弁護を辞退し得ること並びに公訴の提起前における弁護人の選任が必ずしも弁護屆の提出を要しないこと等に徴して明らかである。而して法律が弁護屆の方式並びに其の提出を規定したのは弁護権の存在を確認する手段として其の立証方法を限定したものに外ならないから法律上明文のない弁護権の範囲については周囲については周囲の事情に鑑み当事者の意志を斟酌して之を決定すべきものと謂わなければならない。即ち当該弁護屆に弁護の範囲を限定して記載してある場合、又は被告人、弁護人が事件の一部に就き弁護権の不存在を主張する場合等に於ては弁護権の範囲が確認せられるから爾余の部分につき更に弁護人を附することを要するが、然らざる場合に於ては当該事件の全部に亘り弁護権を有するものと解することが常識上妥当であると謂わなければならない。依つて記録を通看するに原審弁護人太田米吉の弁護屆は弁護権の範囲を限定してないか追起訴提起以前の提出に係るものであつて、従つて該弁護屆提出当時に於ては同弁護人の弁護権も亦右起訴状記載の事実即ち原審判示第二の事実に及ばなかつたことは所論の通りであるが、飜つて原審公判調書の記載を通看するに右追起訴状記載の事実に就ても同弁護人は弁護権を行使をして居り、被告人も亦之に対し何等異義の主張がなかつたことが認められる依之看之原審に於ける当事者の意見は本件公訴事実全部に就き点示の弁護契約が成立し、該弁護権は既に提出済の弁護屆により包括的に立証したものと看るの外はないから、原審が追起訴状記載事件につき弁護人を附せなかつたと謂う論旨は理由が無い。